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大阪地方裁判所 昭和50年(行ク)2号 決定 1975年3月28日

申立人 山本憲司

<ほか四五名>

右代理人弁護士 中山哲

被申立人 八尾市教育委員会

右代表者委員長 貴島正男

右代理人弁護士 俵正市

同 重宗次郎ほか五名

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

第一  当事者の申立

一  申立人ら

1  被申立人が、昭和四七年七月一日付で、申立人らを含む八尾市南本町六丁目居住の児童らの保護者に対してした、右児童らの通学校を同市立高美小学校から同市立高美南小学校に変更する旨の通学地域変更処分は、本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

2  被申立人が、昭和五〇年一月一七日付で別紙保護者目録一の申立人らに対してした、同目録記載児童の保護者として右各児童を同市立高美南小学校に就学させるべき旨の各就学学校指定通知(当裁判所の判断中においては、本件各指定通知という)ならびに同年二月二七日付で別紙保護者目録二の申立人らに対してした、同目録記載児童の保護者として右各児童を就学させるべき小学校を同市立高美小学校から同市立高美南小学校に変更する旨の通知(当裁判所の判断中においては、本件各変更通知という)は、いずれも本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

3  申立費用は被申立人の負担とする。

二  被申立人

主文同旨。

第二  申立人らの申立の理由は別紙申立の理由のとおりである。

第三  当裁判所の判断

一  本件疎明資料によれば、被申立人は、八尾市立高美南小学校の新設計画にともない、昭和四七年七月一日付でそれまでの同市立高美小学校および安中小学校通学区域から安中町七ないし九丁目、南本町六ないし九丁目、高美町四ないし七丁目、楠根川以西の大字今井、大字別宮、大字成法寺(以下これらを一括して本件区域という)を分離し、これを同市立高美南小学校通学区域としたこと(以下これを本件区域の変更という)ならびにこれを前提として本件各指定通知および本件各変更通知をしたことが疎明される(一部当事者間に争いがない)。

二  そこでまず、本件区域の変更の処分性について判断する。

一般に、市町村教育委員会が設定又は変更する公立小中学校の通学区域は、教育委員会が学校教育法施行令五条二項、六条による就学学校指定通知および就学学校変更通知を行なうための運用基準となるべきものであって、右設定又は変更によって直ちに児童の保護者の権利義務に変動が生ずるものではなく、後になされる右各通知をまって初めて具体的に保護者に対し、その児童を就学させるべき義務が生ずるのであるから、通学区域の設定ないし変更自体は抗告訴訟の対象となる処分性を有しないというべきである。

したがって、被申立人によってなされた本件通学区域変更自体は処分性を有しないから、これあることを前提として右変更の効力の停止を求める申立人らの申立第1項はいずれも不適法であり、却下を免れない。

三  次に本件各指定通知ならびに本件各変更通知に対する効分停止決定の許否について検討する。

1  本件疎明資料および被申立人の意見書、追加意見書を総合すると次の事実が疎明される。

被申立人は、八尾市におけるここ十数年来の人口増加に伴う義務教育を受けるべき児童の急増に対応するため、小中学校の新設、校舎の増改築をしてきていた。本件区域の変更前の高美小学校通学区域(本件区域はだいたいその南半分を占める)は、特に人口の急増地帯であり、高美小学校の児童数は、昭和四八年度は一、四九〇名、昭和四九年度末(昭和五〇年二月二八日現在)は一、六五三名と増加し、このまま放置すれば昭和五二年度には、約二、〇〇〇名に達することが見込まれる。このため、同校の本来の児童一人当りの運動場利用面積は、四・七m2であるところ、現実には当初の児童収容予定数をはるかにこえた児童を収容せざるをえないため、数年前からプレハブの簡易バラック四棟(一三教室)を運動場に設置したが、それ自体教育施設として適切なものではないのみならず、右設置により同校は、同市の全小学校の中で児童一人当りの運動場利用面積が最下位の状況となった。同校がこのような状況に至ることは早くから予測されていたので、被申立人は、同和事業計画の一環として行なわれる仮称第二高美小学校の新設と、それにともなう通学区域の変更を計画し、これを市会議員、小・中学校長、自治振興委員会会長、PTA会長、解放同盟支部役員、市助役等一七名によって構成されている八尾市立小・中学校通学区改正審議会(以下審議会という)に諮問した。そこで審議会は、昭和四七年六月一三日から三回にわたりこれを審議した結果、旧高美小学校通学区域を南本町六丁目と五丁目で南北にほぼ二分する計画道路安中教興寺線(昭和三二年計画決定、昭和四四年一部計画変更)をも考慮して本件区域を仮称第二高美小学校の通学区域とする旨の答申をし、被申立人は同年七月一日にこれを審議した結果、同日右答申どおり本件区域の変更をした。

ところが、本件区域の変更がなされるに至る過程で、これによって影響を被る住民の意見が直接聴取されることがなかったため、申立人らを含む南本町五丁目、六丁目の住民は、被申立人や、市長、市議会議長に対し、本件区域の変更がなされることについて、別紙申立の理由第三項(二)、(2)ないし(6)の事情を理由として、これに反対する旨の陳情をくりかえしたが、被申立人が申立人らに対してした説明は、必ずしも同人らの納得が得られるようなものではなかった。しかし、昭和四九年三月二九日に開かれた八尾市議会定例会において、本件区域の変更により、旧別宮村が、南本町五丁目と六丁目で分離されることについて再検討されるべき旨の住民の請願が審議された結果、右請願は、文教民生委員会における閉会中の継続審査とされ、次いで同年七月二二日に開かれた定例会において、同委員会の審査経過および右請願不採択の結果報告がなされ、同議会においてもこれを不採択とする旨議決された。

2  申立人らは、本件区域の変更は手続的に違法であるから、これを前提としてなされた本件各指定通知ならびに本件各変更通知も違法であると主張する。

しかしながら、本件区域の変更につき、被申立人が関係住民の意向を充分に聞くことは望ましいが、これがなされなかったからといって直ちに右変更を前提とする本件指定通知ならびに本件各変更通知が違法となるものではないし、又前示のとおり、本件区域の変更は、審議会の審議およびその答申ならびに被申立人の審議を経たうえなされ、しかもそれは、本件区域の変更前の高美小学校通学区域における人口増加に伴う生徒の急増と、将来の都市計画および同和事業計画等を考慮し、広い視野からなされたものであり、かつ事後的にではあるが、申立人らの意向についても文教民生委員会、および市議会で審議されたことを考慮すると、申立人ら関係住民の意向を事前に直接聴取しないでなされた本件区域の変更と、これに続いてなされた本件各指定通知、本件各変更通知に、違法とまで断定できるほどの瑕疵があるということはできない。

なお、被申立人の教育委員会会議規則(昭和四三年六月二四日、教育委員会規則第六号)一四条一項(申立人引用の同規則五条は改正前のものである)によれば、同会議開催に関して、告示をすることは要求されていないから、本件区域の変更に関する会議の告示がないことを理由とする申立人らの主張は失当であり、その余の手続的違法の主張も前示事実に照して、その前提を欠き採用できない。

3  次に申立人らは、本件区域の変更は実体的に違法であるからこれを前提としてなされた本件各指定通知ならびに本件各変更通知も違法であると主張する。

(一) しかしながら、前示のとおり本件区域の変更は、この変更前の高美小学校通学区域における人口増加に伴う生徒の急増と将来の都市計画および同和事業計画等を考慮し、広い視野からなされており、これによって旧別宮村が南本町六丁目と五丁目で南北に分離されることも急激な都市化現象に対応するためにはやねをえないことと認められ、更に本件疎明資料によれば、申立人らのうち四名を除くその余の者は昭和三六年以降に南本町六丁目に転入し、しかもそのうちの二四名は、本件区域の変更以降に転入したことが明らかであって、これらの者がかつて旧別宮村の地域共同体を構成していなかった以上、その分離による影響はほとんど考えることができず、又旧別宮村の地理的同一性を前提とする各種団体の活動も、本件区域の変更によって直接の影響を被るとは認め難い。もっとも子供会の活動に影響があると考えられるが、これとても前示の本件区域の変更の必要性からみれば、とりあげるほどの問題ではない。

(二) 又本件疎明資料および被申立人の追加意見書によれば次の事実が疎明される。

(1) 高美南小学校は既にその整備を完了し、昭和五〇年四月から開校しうる状態にあり、その規模は、敷地面積二〇、八二五m2、運動場面積七、三五〇m2であり、児童一人当りの運動場利用面積は予定児童数八六一名に対し、高美小学校の二倍強に当る八・五m2である。

(2) 本件区域から高美南小学校までの通学距離は、最長でも約八〇〇メートルにしかすぎず、その通学路についても、学校を中心とした半径五〇〇mの間にスクールゾーンを設置する外、ガードレールの設置、信号灯の設置、誘導員の配置、時間帯制限等通学児童の安全のために配慮がなされている。

以上(一)、(二)の諸点を考慮すると、申立人らの右主張も採用できない。

4  してみると本件各指定通知ならびに本件各変更通知はいずれも適法なものとして容認されるべきであり、右各通知の効力の執行停止を求める申立人らの申立第2項は本案について理由がない場合に該当するから、その余の点について判断するまでもなく却下を免れない。

四  以上の理由により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 石井彦壽)

<以下省略>

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